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愛と義のまち米沢エッセイコンテスト 金賞受賞作品一覧
第8回 金賞『忘れ物』 山田幸夫さん(大阪府)
 私は、定年退職した後は自転車で日本一周の旅をしたいと思っていた。念願叶って、大阪の自宅を出発したのは、2010年の春。東北方面を目指した。

 日本列島を北上すると、桜の開花していく様子が体感できる。桜前線がゆったりと移動する風景は、日本の四季そのものだ。爽快感を満喫し、駆け抜ける日々。

 ところが、である。宮城県気仙沼市に到着した時、財布がないことに気が付いた。現金だけではなく、カード類も入っていたので、茫然自失。どこで失くしたのかまったく記憶がない。未練を残しながら、旅を断念しなければならなかった。大阪へ戻ること以外の選択肢はなく、持っていた万一の時のお金で夜行列車に乗り、大阪へ戻った。

 重い足取りで玄関を入ると、棚の上に小さい荷物が置いてあった。住所は宮城県女川町とあるが、送り主は知らない。開くと、あの財布と便箋一枚が入っていた。便箋には、「申し訳なかったですが、財布などの中身も見てしまいました」と綴られている。

 昼に入った女川港の食堂に置き忘れたのだ。お礼の電話を入れると、受話器の女性の声に覚えがある。お礼を言う私に対して、女性は、恐縮した声で、便箋に書かれていたのと同じお詫びを再び口にした。

 受話器を持つ掌が、自然と固く握り締められ、徐々に感動が溢れていくのが自分で分かった。その余韻を味わいながら、愛おしむように受話器を静かに置いた。

 あの日、昼には遅い時間帯のためだろう、食堂は私一人だった。年配の女性店主の東北弁と私の大阪弁との会話が弾んだことを思い出した。

 ──その翌年の2011年3月11日、東日本を地震、津波が襲った。あの食堂と女性が頭に浮かび、居ても立ってもいられなかったが、連絡がつかない。数か月後、少しでも力になりたいとの思いでやっと駆けつけた。目を覆う光景が広がっている。無我夢中で駆けつけたこの時から、私の恩返しボランティアが始まった。